九州の大学病院で初めて
保険診療による子宮筋腫に対するカテーテル治療を開始
婦人科医師と密に連携した精度の高い治療
久留米大学病院では、2016年11月から子宮筋腫に対するカテーテル治療:子宮動脈塞栓術(UAE)を開始しました。保険診療による当治療は、九州の大学病院では初めてです。UAEとは、子宮筋腫に栄養を与えている子宮動脈を、塞栓物質で詰めることにより、筋腫への血流を遮断し筋腫を縮小させ、筋腫による症状(過多月経、痛み、圧迫感)を緩和する治療法です。UAEは局所麻酔で行います。入院日数、社会復帰までの期間が短い低侵襲な治療であり、手術のような大きな傷跡が残らず、子宮を温存できる利点があります。
久留米大学医学部放射線科 小金丸 雅道
UAEの歴史と経緯について
1990年代にフランスで始まった子宮動脈塞栓術(以下UAE)は、90 年代後半から日本でも実施され始めました。しかし当時の子宮動脈の塞栓物質は保険適応がなく、長い間高額な自費診療で行われてきた経緯があります。その後、2014 年から保険診療でUAE が実施できるようになりましたが、全国で治療できる施設は限られています。また、正確な情報が医療関係者や患者さんに伝わっておらず、誰もが普通に受けられる治療となっていないのが現状です。
当院でのUAEの特徴
子宮筋腫は婦人科領域の疾患です。当院では、これまで多くの子宮筋腫治療に携わってきた婦人科医師と、治療前の診断から治療後まで密に連携をとり、質の高いUAE治療を行います。UAE前は、婦人科医師による超音波断層診断、子宮頸部および体部の内膜細胞診検査、MRI検査などをおこないます。UAEは悪性疾患の存在を否定することが必須であり、これらの検査により患者さんは安心してUAEを受けることができます。またUAE後に稀に起こる合併症として、筋腫分娩などがあります。持続する発熱や性器出血継続時は、必要に応じて婦人科医師の診察を受け適切な処置を行います。
UAEの適応について
適応は下記の如くです。
- 子宮筋腫由来の有症状例(過多月経、圧迫症状など)
- 症状が薬剤治療で制御困難
- 外科的手術の適応とならない、または希望しない
- 妊娠をしていない、将来の妊娠・分娩を希望しない
- 子宮癌検査が陰性 (MRIなどを含めて、子宮肉腫の可能性が極めて低い)
- 骨盤内に感染症がない
- 閉経前である
- 最後のホルモン療法後、最低8週間以上経過している
なお、UAE治療の適応とならないのは下記項目です。
- 骨盤内の活動性感染症(禁忌)
- 子宮・附属器の悪性腫瘍、あるいは悪性腫瘍が強く疑われる(禁忌)
- 造影剤の重篤なアレルギー歴がある
- 症状の原因となっている子宮筋腫に血流がない
- UAEよりも望ましい治療法がある
- 凝固異常・免疫異常がある
- 挙児希望がある
UAE治療を慎重に検討する項目は下記です。
- 巨大な子宮筋腫
- 筋腫分娩
- 子宮腺筋症の合併
- 良性卵巣腫瘍の合併
- 慢性子宮内膜炎
- 有茎性粘膜下筋腫
- 有茎性漿膜下筋腫
- 卵管水腫
- 骨盤内に対する放射線治療の既往
UAEの実際
-
①
治療の準備を病棟でおこないます。
治療当日の食事は一時絶食ですが、水分は摂取頂いて構いません。腕から点滴をし、痛み止めなどの注射を開始します。両脚には弾力ストッキングを履いて頂き、両側の脚の付け根あたりの一部除毛をおこないます。また、尿道にカテーテルを留置します。 -
②血管造影室にて。
上を向いた状態で寝て頂きます。両側の脚の付け根を中心に消毒し、清潔なシーツを体全体にかけます。脚の付け根あたりに局所麻酔をおこない、皮膚に5 mm程度の小さな傷を入れた後に、脚の付け根にある動脈からカテーテルを挿入します。この治療は局所麻酔で行うので、患者さんは意識がある状態です。カテーテルを両側の子宮動脈に挿入し、塞栓物質を用いて治療します。治療時間は60分から120分程度です。
治療終了後は、針を刺したところを押さえて止血します。止血にかかる時間は10-15分程度です。傷は小さいため、糸で縫合する必要はありません。その後は2-3時間程度安静にして頂きます、多くは治療日の夕方あたりから座ったり、歩いたりすることが可能です。
UAE後は下腹部痛や発熱を認めることが多いので、あらかじめ痛み止めを注射します。また症状に応じて対症療法を行います。
入院期間は、3-4日程度です。退院後は定期的に血液検査やMRI検査をおこなっていきますが、性器出血などの症状がある場合は、婦人科医師の診察も受けて頂きます。
UAEの治療効果について
学術論文で報告されているUAEの有効性を表で示します。
報告された割合(%) | |
筋腫サイズの縮小率 | 50-60 |
子宮サイズの縮小率 | 40-50 |
腫瘤感が低減した患者の割合 | 88-92 |
不正出血が消失した患者の割合 | > 90 |
症状が消失した患者の割合 | 75 |
患者満足度 | 80-90 |
Dariushnia SR, et al. J Vasc Interv Radiol. 2014;25:1737-47
UAEの合併症について
学術論文で報告されているUAEの合併症を表でまとめると下記になります。
合併症 | 症例数(文献数) | 発現率 %(95%CI) | |
重篤な合併症 | 8159(54) | 2.9(2.2-3.8) | |
血管造影に伴うもの | 6953(44) | 2.9(2.1-3.9) | |
感染 | 7149(49) | 2.5(1.8-3.2) | |
筋腫分娩 | 6858(41) | 4.7(3.9-5.7) | |
深部静脈血栓/肺塞栓 | 7632(54) | 0.2(0.2-0.4) | |
卵巣機能廃絶(無月経) | 5173(40) | 3.9(2.7-5.3) | |
その他のイベント | 合併症による子宮摘出術 | 4903(53) | 0.7(0.5-0.9) |
再入院 | 6223(37) | 2.7(1.9-3.7) | |
手技的成功率 | 7545(48) | 97.3(96.7-97.9) |
Toor SS, et al. AJR Am J Roentgenol. 2012;199:1153-63
欧米では当たり前の子宮筋腫のUAEを、九州でも当たり前の治療にするために、久留米大学病院ではUAEを開始しました。ご相談は下記までご連絡ください。
問い合わせ先
ご質問、ご相談は遠慮なく下記にご連絡ください。
久留米大学医学部放射線科 小金丸 雅道(こがねまる まさみち)
0942-31-7576(放射線科医局直通)
E-mail: mkoganemaru@med.kurume-u.ac.jp メールはこちらへ