久留米大学病院では、2006年より形成外科外来に血管腫専門外来を開設し、九州各地より多くの患者の診察、治療を行なっています。血管腫外来では、形成外科医と放射線科医が連携して一緒に診察することにより、より多くの治療の選択肢を患者さんに提供することができます。集学的治療と呼ばれる診療体制で、がん治療においては多くの施設で行われていますが、血管腫・血管奇形の分野で放射線科と形成外科の集学的外来診療を行なっている施設は、日本ではとても少ないのが現状です。
まずこの血管腫専門外来を始めて、我々が驚いたことは、多くの患者さんが今までにいくつもの病院を受診してきたにもかかわらず、正しい診断が行われず、自分の病気についての正しい説明を受けたことがない、という事実でした。通常、血管奇形や血管腫の患者さんは、「血管腫」の診断で、外科に紹介されることが多く、この病気を安全に手術で切除できるかどうかを検討されます。そこでの問題は、手術できない「血管腫」は放置されること、手術の他に治療法があるのに(例えば、塞栓術、硬化療法など)その治療選択を与えられないこと、そして治療する必要がない疾患に対して手術が行われてしまうこと、の三点です。
このような現状は、まず正しい病名がつけられていないこと、病名についての混乱に原因があります。血管腫・血管奇形には、多くの種類の疾患が含まれており、それぞれについて異なる治療のアプローチが必要です。頻度の多いもので言えば、静脈奇形(従来は海綿状血管腫と呼ばれていたもの)、リンパ管奇形(従来のリンパ管腫)、動静脈奇形(AVMと呼ばれます)、乳児血管腫(従来のいちご状血管腫)、などのほか、多くの疾患があります。これらの病気の診断は、ISSVA分類という国際的な疾患分類に従って、系統的に診断する必要があります。日本では、このような混乱した状況を改善するために、ISSVA分類に準拠した「血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン」が作成されており、このガイドラインにより診断し、治療法が選択されることが望まれます。ですから、「血管腫」と診断されている患者さんは、まず自分がその中のどの疾患であるかを知る必要があります。2013年から2016年の4年間に久留米大学病院血管腫外来を受診された患者さんを疾患別にその数を示します。
血管腫・血管奇形には多くの種類の疾患が含まれているわけですが、同じ疾患であっても病気の性質、患者さん症状、背景などによって、治療方針も変わってくるのが、この領域の病気の特徴です。それぞれの患者さんごとに、十分にお話をお聴きし、我々に何ができるのかを一緒に考えることが重要だと考えています。医療者と患者が病気を介して向き合うのではなく、共に同じ方向を向くことを大切にしています。久留米大学病院には、大きな手術を担当する形成外科医、レーザー治療を専門とする形成外科医、血管腫・血管奇形などの骨軟部の画像診断を専門とする放射線科医、カテーテル治療、硬化療法などを専門とする放射線科医など、この領域の治療を担当するチームがあります。お気軽に形成外科外来を受診ください。血管腫専門外来は木曜日の午後のみで、予約制となっています。(Tel: 形成外科外来 0942-31-7616)
文責:血管腫外来担当医師 田中法瑞(放射線科教授)